いんぐれす村奇譚

いんぐれす村奇譚

これはIngressAdventCalendar2016の19日目の記事です。

まず、これはめちゃくちゃ長文なのと、有名なマンガの完全パロディなので面倒くさくなったらそちらを読んで下さい。というかぜひ読んで下さい。

そして推敲や校正も不十分なので至らない点があることには目をつむってください。さきほど数えたら文字数1万2千字超えでした。これでもだいぶ駆け足のつもりなんですけどね(汗)

というわけで、イングレス村奇譚です。

  • この物語はフィクションです。実在する人物、団体、株式会社、インターネットサービス、その他とは一切関係ありません。
  • しかし、Nianticの運営する”Ingress”、”ポケモンGo”などに存在する、ちょっと変わったコミュニティに関しての知識のある方には楽しめるかと思います。

序章 Downloading latest intel package. Welcome back.

私がそのゲームを知ったのはいつだったか。そういえば数年前に何処かのブログで流行っていると聞いた。しかしそのときは何をするゲームなのか全くわからずにすぐに消ししてしまったのだ。

黒い画面と緑と青のライン。無機質で英語だらけのそのゲームには得体の知れない寒々しさがあり、近寄りがたい雰囲気があった。女の子のキャラばかりいるゲームに慣れきった自分には、ホームページビルダーで作ったサイトを見るような嫌悪感におそわれたものだ。

だからそのゲームの存在を思い出したのは久々だった。ポケモンGoの人気の裏でその名前を再び聞き、さらにポケモンGoの人気が薄れた頃にこのゲームを知り合いがやっていると聞いたのだ。 記憶の彼方に合ったアカウントを掘り出し、再び入れ直したそのゲームからは日本語が返ってきた。

知った声。だが初めての感覚。戸惑う自分に彼女はこうつぶやいた。

「おかえりなさい」

周囲の音が気配を消した。

第一章 ここはどこ

不思議な女性と腕輪の謎

気づくと自分は知らない路線の知らない駅に立っていた。無人の駅。周囲は濃い霧で覆われすぐ近くに集落が見える。だが誰もいない。たった一人の女性を除いて。

「ここはイングレス村、千葉の片隅にある寒村です」

"イングレス"…Ingress

私がインストールしたアプリの名前だ。自分のアカウントと色を決めたのはもう随分前のことだったのでどういうものなのかイマイチ思い出せない。

声をかけてきたのは眼鏡とロングスカートの女性。魅力的だが自然と距離を置いてしまいそうな不思議な雰囲気。どこにでもいて決して会うことはないだろうと思えるその女性は、この村の案内人だと言った。この路線は既に廃線となっているらしい。

「この村に来るのは初めてではないようですが、ご案内いたしします。でも…」

女性はバッグからiPadを出し、この村での掟だというパワーポイントを提示した。

  1. あなたを証明する名前は唯一のものであること
  2. 許可なく姿をくらませたり数百キロを数秒で行き来しないこと
  3. 入れないはずの場所に立ち入ってはいらないこと

「これらをよく確認してください。最近良く部外からのアクセスを受けたり、複数の仮面を使って出入りする集団が後をたたないんですよ。まあここの村民の怪しさに比べたらなんでもなんですけどね」

そういうと女性は私の手首に石の嵌った白い腕輪をはめた。石は私の所属するグループの色に変化し、同時に私のアカウント名が表示される。

「ああ、よかった。まだ綺麗な色なんですね。その腕輪の石がたまに緑と青が混じったシマシマ模様になったり、真っ黒なドブ色に染まる人がいるんですよ〜」

この腕輪は何かの通行書でしょうか?酷く恥ずかしいので外したいのですが。

「構いませんが、必ず村人から質問を受けるのでむしろ付けていたほうが安全…いえ安心ですよ」
「そしてその色と名前をお忘れなく。あなたの所属するファクションですから。でも今日は色に無関係な場所を中心にご案内しますね。」

女性はそういって私を村の入口に案内してくれた。

"イングレス村"

入り口は何故かトーテムポールだった。 こんな村に何故入らないといけないのか、そもそもここに何故自分がいるのだろうか。 しかし、いまさら不信感を持つのも馬鹿馬鹿しい。私は意を決してその村に入ることにした。

「ちなみにその腕輪は特に伏線でもなんでもないですからね」

女性はいたずらっ子の笑顔で振り返った

見張り台と火事

「最初にこの村の簡単な説明をさせていただきます」
「このイングレス村は人口も規模も不明です。わかっていることは、ここが高さ50メートルの3重の壁に囲まれていることと、数多の神々が存在することです。」

女性は歩きながら世間話をするように説明してくる。そして先程のiPadを取り出してマップを表示した。

「今私達がいる場所が村の入口付近。すぐそこに高い櫓(やぐら)が見えますね。」

女性の指差す方向には高い櫓がいくつも見えるが人の姿はない。しかし奇妙な話し声は聞こえる。

  • –新人がきたぞ
  • –またポケゴー関係じゃないのかな
  • –どうせ直ぐに飽きるさ
  • –複垢かどうかだけ確認するか

「どうやら彼らにアナタの存在が感知されたようです。みなさん、アナタをリアキャプしたくてウズウズしているんです」

リアキャプとは何でしょうか?

「リアルキャプチャ。つまりプレイヤーに物理的に接触することを言います。アナタがどんな人なのか、どんな行動をするのかを知ろうとします。そのため、ときに村民はあなたにリアルで会おうとする傾向があるのです」
「でも、全てが良い人ではありません。中には人の姿をした獣もいますからね」 「それと、あの櫓は火事を見学するためのものでもあります。なので、あの場所は自警団の縄張りでもあります。」

青いコンビニと自販機

「村には多種多様な施設があります。といってもこの数年で急激にできたものです。昔は本当に何もないところだったんですよ?」

「村の商業施設は、コンビニが2件、保険会社が1軒、携帯会社が1軒、本屋が1軒、銀行が1軒、それと自動販売機が無数に存在します。」

そういえば先程から自販機の下を覗き見ている人がたくさんいますね。彼らは何をしているのでしょうか?

「あれは村民の恒例行事であるKlean活動です。皆さんああやって地域の自販機周辺を綺麗にしているんですよ。端から見れば小銭探しですし周辺を汚すことのほうが多いですが。」

女性の目は、浮浪者を目にしたそれと同じだった。

灯台と神々の山

「村といってもここは自然豊かなんですよ。東側には海と灯台があり、北には高い山が連なっています。南側にはさきほどの入り口と、すぐ近所に別世界へのワームホールが開いているんですが、それは別の機会にお話しましょう。」

「西側には、この村と現世を2つの山があります。通称"月曜日のもん"です。村人は日々この山を超えて出社しています。」

なぜ3重の壁に囲まれているのに海や灯台があるのでしょう

「良い質問ですね。かつてこの村は平和だったのですが、2年ほど前に"超大型巨人"が襲来して村の外壁に穴が空きました。そこからこの村には新しい風が吹いたと祝えています。」

彼女は伸ばしていた手を別の方角へと向ける。

「北側の山を御覧ください 。あそこにとても大きな気球がありますでしょう?あれは神々の1柱であるNIAの居住区です。実は、元々は別の神が実質的な支配者として君臨して村を支えていたのです。しかしあるとき息子であるNIAを残してこの地を去っていきました。」

その去っていった神とは何なのでしょうか?

「ごめんなさい、言えないんですよ。その名前を口に出すと"SEO"という強力な武器で口をふさがれてしまいますから」

「現支配神であるNIAは通称です。ご存知のとおり、NIAとは外宇宙から来た墜落船 "Niantic, The Nomad Imortal of ANTi IConic(虚像歪曲の移ろい人)"から取られています。彼らはこの村に様々な人を集めて世界を実効支配したいようです。最近では日本にあるN社やP社と組んでいるようですが、果たしてどうなることやら」

第二章 村人の生態

私達だけがいる村

先程から村人を見つけようとするがあまり姿を見ない。 公園で立ち話をしていたかと思うと周囲をぐるぐると回り始めたり、神社の境内を何往復もしたり、川沿いを重そうなリュックを背負って行進したり。 村の中は広い上に、公的資金の無駄遣いを象徴するような大量のオブジェが存在する。公園や寺社仏閣も所狭してと並んでいる。だけど、人の姿はそれらに比べればずっと少ない、ような気がする。

「目に見えるものだけが現実ではありません。村民は屋外での行動に対してある程度の秘匿技術を持っています。路地裏に身を潜めたり、屋上にいたり、食事を楽しんでいるように見せかけたり」

なるほど、しかし彼らの住居はどこにあるのでしょうか? 商業施設や公園はたくさんあるのに居住ができそうなものがあまりありませんよ

「はい、実は彼らの多くは地下で生活しています。」

地下に?しかしそのような入り口は見えませんでしたが

「村民の多くは人畜無害ですが、中には凶暴な化物も存在しています。ですから現実の犯罪に巻き込まれないよう、彼らはステルス状態で家にたどり着くことが多いのです。たまにおもらしをしてしまいますけどね」

そういうと女性はとあるサラリーマン風の男性の後をつける。男性が路地を曲がると急速にその姿が薄くなり存在がなくなったかのように見えた。 今、彼は地下に潜ったのだろうか?

「よく見ていてください。その看板の色が今変わったのを。多分これが彼の自宅ポータルなのでしょう」

いまいち飲み込めないが、女性は即座に地下の入口を発見してしまった。 中には先程の男性がビールを飲んでいる。 女性は男性に近づき、会話をしてのちに振り向く。

「いま、特殊な交渉術によって村民の生活風景を見せてもらえるように頼みました。ちょっと拝見しませんか?」

私は首肯するしかなかった。女性の左手に大量の毛髪が絡まっているのを見てしまったからだ。

村の通信手段

「村人の多くは日々このような部屋でSNSに向かっています」

部屋の中にあるディスプレイには、様々なSNSや地図のようなものが映し出されている。しかし、見慣れたツイッターやLINEとは違う。 緑と赤というインスタント麺のような色ばかりだ。

みな何を見ているのですか?

「これはHangOutsやGoogle+というSNSアプリです。村外の人達はLINEやFacebookを使っているはずなんですが、この村ではそのようなインフラがありません。貧乏ではなく内外を隔離しているためです。それぞれ中ではHOやG+の相性で親しまれていますよ」

「元々、この村は"SEO"という雷槌を武器にする神を祀る街の一部だったのです」

「その神が当時理不尽に推していた自社サービスの普及の一環として、イングレスの認証システムにG+を導入したのです。ですから今でも、古参の住民はG+やそれに紐付いていたHOを使っています」

HOやG+ってあまり普及していませんよね。でもそんなのでいいのですか?

「むしろ普及していないので使いやすいのです。家族や同僚とはLINEやFacebookでやり取りしているので、村民としての顔はあちらには漏れません。村の中と外を完全に切り離して置けるのはとても便利なことなのですよ」

「でも今はそのHOやG+も手狭になることも多く、そもそもG+自体がオワコン化しています。なので多種多様な通信手段を模索しているらしいのです。最近人気なのは、SlackやTelegramですね。」

女性とともに村人の家を出ると、路上に大きな掲示板が出ているのに気づいた。 それは道路の真ん中に常に表示されていて、正直どうでもいい情報しかよこさない。誰がいつ何をしたのかをそこでは表示しているのだが、それを本当に必要としている人間はいるのだろうか?いや、それ以前にとにかく見づらいのだ。

「これはCommといって、村に代々伝わる瓦版のようなものです。実際に生活している人のログがここに出ますし自由に書き込みも可能です。簡易チャットのような機能も備わっています。でも、とても使いにくいですね」

「これを利用するのはごく僅かな人です。でもイデオロギーの違う人達との交渉事に利用する場合もあるんですよ。主にさらし首や煽り目的なんですけどね」

ここの村人にマトモな人間はいるのでしょうか?

「え?まともな人がここにいるなんて、どの神が保証しているのでしょうか?」

女性は笑顔だった。瞳孔が開きっぱなしであることを除けば。

リンクアンプ教団

「あ、ちょうどリンクアンプ教団、略してLA教の集団が来ましたよ」

LA教? 見ると両手を頭の上で三角にして練り歩く集団がこちらに歩いてきた。中には頭にパイロンをかぶった人間もいる。変態か?たしか十年以上前にあんな体操が流行ったような。

「LA教とは、イングレスの中でも最も役に立たないリンクアンプを崇める教団のことです。ただしVRLAは除く。村民の1割が該当すると言われ、リンクアンプを積極的に使ったり、気に入らない自宅ポータルに投下して反転するそうです。」

気味の悪い集団は、さらに何を思ったのか灯台に向かって各々ポーズを取り始めた。うぅ気持ち悪い。

「あれはシェイパーのポーズです。行きましょう、じきここもLAコールに沈みます」

法典と承認欲求

村の中心地だという噴水に女性は案内してくれた。噴水の中には巨大な石棒があり、その周りで獣達がたむろしている。鷹に羊に犬に熊、他にも様々な猛獣珍獣ばかりがいる。そして周囲は圧倒的に猫が多い。牛が悲しそうにこちらを見ているが仲間にはしたくないな。 共通しているのは、彼らが互いに話し合っていることだ。

「この村で最も危険なのは、実はこの中心街なのです。ここでは誰もが人の形から解脱する傾向にあります。多くはあのように、犬や猫などの動物の形となります。動物アイコン怖いです」

彼らは何を議論しているのでしょうか?あのような -醜い- 怖い存在になってまで

「噴水の中にある石棒は、神々が村民に示した最古の言葉"エージェントプロトコル"です。村民における唯一の法典といえます」 「彼らはあの法典の解釈を巡ってしばしば議論をしているのです。大体が不毛ですし、相手を見てすらいません。殆どは承認欲求を満たすためだけに活動しているだけと思っていいでしょう」

私は動物となった彼らに近づいた。

エージェントプロトコルを嫁 また複垢かよ。さらし首にしてやる 青が勝てない理由と緑がだめな理由を言ってやるめぇ。いやーブログ書いているほうが楽しいめぇ 炎上案件どこだ…社畜楽しい…

「それ以上彼らに近づいてはいけません。万が一職場通報されたら元も子もないんですから』

イデオロギーと地域コミュ

「そろそろ村長の下に向かいましょう」

村長というと、ここの地域名の入った施設に入れば良いのですか?

「いいえ、そこは既に誰も住んでいない砂の城です。この村ではオープンな家は大抵誰も住まなくなるのです。ここもゴーストだらけですし、ほらここなんて中で独り言をつぶやいている人しかいませんよ」

そういえばさきほどから緑や青による住み分けというのがあまりないように感じるのですが、これは陣取り合戦のはずですよね。

「はい、イングレスはその性質上として日常から色を意識するように作られています。しかし、色による区分はとても大雑把で細かいことが機能しづらいのです」 「ですから、目的に応じて自身のコミュニティを探すことが重要です。特に自身の通勤圏でのコミュニティは大きな色による区別以上に大事です。ときに色に関係なくその地域でコミュニティを作る場合だってあるんですよ」

なるほど、では私はどうやってそのような地域密着のコミュニティを探せば良いのでしょう?

「はい?別に入る必要なんてあまりないですよ?」 「そこには有象無象の危険生物が沢山いますから。大体がイングレス関係ない趣味の話しかしていませんし、身内ネタばっかりで若い人にはつまらないかと思います」

なぜ、彼女はそんなものを紹介するのだろうか

「でもですね。地域のまとめ役である村長、つまりモデレータには挨拶しておくのはいいことです」 「ということで迷犬村長。お客様です」

村長だという犬がいた。この人もヒトの形を忘れた存在なのだろうか。

村長:「私がこの地域のモデレータです。シベリアと樺太のどっち好き?ああ、忙しい忙しい

「村長は今日も忙しそうなので別の機会にしましょう。でも気をつけてください。彼はこれまでに何人も食い殺している狂犬です。特によだれに注意を」

村人の職業

この村の人々はどのような職業の方なんですか?

「全体を把握しているわけではありませんが、村民の多くはIT関係に深い関わりを持っているそうです。会話の中に"イニシアティブ"とか"アサイン"とか"Trusted"とかの横文字を使いたがる傾向にありますね。自意識過剰なんでしょうね。」 「プログラマーやSE、イラストレータなんかもいます。イングレスではあらゆるスキルを活かせる場合がとても多いため、自身の職業経験を明かす傾向が強いのです。例えば、NIA関係者から出される意味深な英文を翻訳することをなりわいとする人もいるんです。」

村人の多くは成人した人ばかりで10代の学生があまりいないようですが、彼らのような時間を使える人がいないのは何故なのでしょうか?

「良い質問ですね。イングレスはキッズ向けの要素が殆ど無いことに加え、さきほどいったようにある程度のスキルや経験が備わっている場合に最も真価を発揮します。例えば表計算ツールで情報共有することに慣れていたり、スクリプトを操ったり、あるいは人との交渉を行ったり。あと、最も違うのは移動手段です。免許は大きなアドバンテージです」

「イングレスは1人で遊んでいるとほぼ作業ゲーになってしまいますが、集団になるとゲームの腕とは全く違う要素を活用できたりするんです。まあG+で随筆書くだけの能力は不要の極みなんですが」

確かに、ゲームが上手い下手であまり差がつくわけでもない。それにこんな無機質なゲームを若い子たちが続けられるとは中々思えない。作業ゲーの裏に別の何かを見つけられるのは、社会経験に由来するのかもしれない。

「あ、深く考えないことです。ここの村民は 生存者バイアス にかかっているので自分たちを特別な何かと勘違いしている傾向があるんですよ。ブラック企業に何年も勤めて搾取されている人と同じです。沈没船から抜だそうとしなかったかわいそうな人達なので、手を差し伸べるだけ無駄です」

第三章 村のお祭り

突然のBAF

それは突然だった。 視界に緑のカーテンがかかり、村に喧騒が沸いた。空が一面の濃い緑で覆われているのだ。 周囲を見渡すと壁の向こうに巨人が立ち上がっている気配がする。自分はその影に覆われたと認識した。

あれは一体何ですか?

「2年前に不意にこの村を襲撃した超大型巨人"Darsana"がいました。あの巨人もその仲間です。今回は大阪-東京-仙台の内陸を通過するという超難題をクリアして生まれた凶悪なものですね」 「見ていてください。あの巨人が現れると村人の多くは畑を耕せなかったり灌漑ができなかったりします。そのため、村の外の市街地の人や村の中でも小規模な集団にはとても嫌われた存在なのです、あの巨人は」

なぜあのような迷惑極まりない存在がいるのでしょうか?あの巨人は人の手によって動かされているのですか?なぜこの村は三重の壁に囲まれているのでしょうか?

「それは最新21巻を読みましょう。賛否に分かれていますが私は兵長の味方です。私が言えるのはここまでです」

ガーディアンズ

さきほどの巨人は1日居座ったあと消えたようだ。

「村人の中にはあのような巨人を召喚する集団が少なからず存在します。そのたびにガーディアンズ達が恨みつらみを吐いています。」

ガーディアンズ?

「昔からいるグレムリンの一種です。ポータルを一定期間保守することに全精力を傾けた人たちです。ガーディアンメダル目当てだったり、思い出の地だと主張したり、補給場所なのでもとに戻せだとか騒ぎ立てます」 「ガーディアンズには極力かかわらないことです。反転行為のためにいちいちお許しを求めたら日が暮れますよ。実際に交渉しに向かうケースとか地獄だったらしいですし」

アノマリー

そういえばアノマリーという言葉を聞いたのですが、何をするのですか?

「アノマリーは公式イベントの1つで、緑と青の双方が狭い地域のポータルを取り合う騎馬戦のようなイベントです。最近は玉転がしと併用していますが、混乱するだけですし、戦略的に固まりすぎてマンネリ気味かもしれません」

いわゆるガチ勢のイベントということですね

「残念ながらその傾向が強いと思います。東京では3度行われましたが、どれも初心者が気軽に参加して楽しめるようなものとはあまり言えません。特に3回目は戦場がとにかく広い上にルールが複雑だったので余計にそう思えます。東京という土地柄もあってデタラメに巨大化してましたし」

「そのため神であるNIAはアノマリーを日本の主要都市以外で開催する傾向にあったり、最近では日本をはずすことさえあります。でも、NIAのスポンサー様である自販機メーカーの機嫌を損ねたらしいので、別の企画をしたりしました」

神も尻に敷かれているのか

村祭

村の中が焦げ臭い。 先程のBAFの頃から臭っていたが、今度は違う匂いが混じっているようだ。

「ああ、ついに村祭の始まりですね」

村祭?

「はい、エージェントプロトコルの石碑があるところにいってみましょう」

噴水広場には大勢の村人がいて、多くが"+1"と書かれた松明を持っている。 即席の十字架と棺桶を作っている職人やバケツを持った火消し組のような集団もいる。バケツに"ガソリン"と書かれているのがとても気になるが。

「さきほどの巨人が出現したりすると、ガーディアンズや開拓者たちが蜂起することがあるのです。」 「でも1番厄介なのは複垢やGPSジャンパーの存在、それと色や地域によるイデオロギーの違いです。今は複垢問題で延焼気味ですね。」

複垢なんてどこのゲームでもいるのになぜそこまで嫌われるのですか?

「イングレスは地域コミュニティによる自治がとても強いゲームです。これは人の物理移動がゲームに深く関わるため、リアキャプつまり物理的な接触による繋がりがコミュニティの原点になっているのがその主因です。また、緑青という陣営を分けたのでその間の絶縁を確保することはゲーム性に大きく関わります。故に、複垢やGPSを利用した位置偽装は、ゲーム性やコミュニティの信頼を損ねる重罪となります」

つまり会社内のコミュニティに競争相手を入れたくない、という心理と似ているのですね。

「そんな感じです。実体はもっと違うと思いますが」 「そしていま、その複垢騒動での投稿が村長方の目に止まったらしいのです。みんな喜々として松明に火をつけようとしてますよ。あ、手斧を持ち出して外部に持っていこうとしている人もいますよ。彼らの多くは 自警団 なのでXX沙汰もいとわない凶悪な集団です。決して近づかないように。」

言っているそばから自警団の1人と思われる人が巨大な尻尾になった。まるではて◯な村民の巨大生物にように。

「あれはニューウェーイ部ですね。第1形態は尻尾だけで、後は移動しながら第二形態の蒲田くんになっていきます。呼吸困難で這いずり回っている間が1番かわいいのですが、そのうち汚物を吐くだけの巨大生物になってしまう例もあります。全部駆逐してやる」

なぜここの村民はこうも捻くれているのやら。 いや、この女性からして…

Goruck

そういえば、川沿いで不思議な集団がいましたね。彼らは何なのでしょうか?ああ、なんか関わりたくないので

「彼らはGoruckという肉体競技に挑んでいるのです。簡単に言うとリュックサックにおもりを入れて軍隊ごっこする遊びです」

それがイングレスとどう関わりが?

「軍隊ベースのリュックサックメーカーがGoruckです。それが自社製品のPRも兼ねて破天荒なアスレチック競技をするようになりました。その会社がイングレスと協賛したことがきっかけでイベントに絡むようになり村民の間で定着していったのです」 「村民の中には健康志向が稜線越えて狂気に陥るケースがあります。自転車で東海道24時間走ったりする人もいますし。Goruckイベントでは自身の肉体自慢をできるので、こういう馬鹿な競技をイングレスそっちのけでやる人がいるのです。」

奇妙だが、健康に良いのならかまわないか。竹で武装しているのは気のせいかな?

最終章 Tobe Continued

村からの逃亡

逃げちゃだめだ、逃げちゃだめだ。さきほどから悪寒が背筋を走るがぎりぎり耐えてきたのだ。

「そもそも、この村はイングレス市の一部をかってに村民が独占したことがきっかけで作られました」 「普通の市街に住む人にとっては、イベントのたびにでてくる村民は武装勢力のような印象を持っていると思います。実際に強いですし。一部狂っていますが」

そんな勢力を、神であるNIAはなぜ許しているのですか?

「え?NIAも結託しているからですよ?神があなたの正常を保証してくれるというならば、その神が正気であると誰が保証するのですか?」

狂っている。つまり全部が。特に、こんな文章をネットに公開できる作者の血の色は何色なんだ? この村は正気ではない。気づいたのはもうずっと前だったが好奇心がそれを隠していた。いまはそれすら押しのけたい。

逃げ出そう。

そう思った私の脚に誰かがすがりついてきた。

まってくれ、せめてレベル3まではプレイしてくれ。メダル案件クリアできないじゃないか!

無視した。

リアル課金

私は逃げ出した。しかし女性は追ってくる気配がない。振り返ると、能面のような表情だけがそこにある。後ろ髪を引かれるが仕方ない、私は走った。

村から出るのは西にある山を超えるしかない。さっきの入り口は櫓があって決して通れる気はしないからだ。 方位磁針もないが、先程の巨大な船と巨人の位置から容易に推測できる。目指すべき場所に向かった。

だが私を追ってくる気配がある。くるみを割ったようなヘルメットと、冬でもレーパンを履いたチャリライダーだった。

「おれはリアル課金厨。このチャリはイングレス始めてから買った3代目だ。30万もしたんだぜ。よくみろよこのコンポ、そしてこの健脚を!」

その後からバイクが追いついた。

「俺のスマホは5台目だ。イングレスしているとGPS精度まで確認しなきゃいけないから苦労するぜ。」
「そうそう、イングレスで痩せると思ったのに今では宴会が多くなって5キロ太っちまったよ

聞いてない。私は歩をさらに進めた。

あなたは誰ですか?

追手ではなかったが心底厄介だと思う連中を巻き、ようやく出口だという山に着いた。

そして気づく。今日は月曜日、出勤日だということを。仕事のことを、家族のことを。 なぜかあの案内役の女性が頭をよぎる。彼女に何も言わずに来たことを今更どう後悔しろというのか。

だが意を決する。今までもゲームを辞めてきたじゃないか。 ポケモンGoだって大して面白くなかった。

これがこのゲームとの最後だと思い山の入口だと思われる看板に手をかける。あの女性がいた。ロングスカートの似合う、しかしアウトドア系の彼女が。

「ごめんなさい。驚かせてしまいましたね。私はどこにでもいてどこにもいない存在。あなたが思い出してくれるだけで私はそこにいることができるのです」 「私のエゴで村を案内させてしまいましたね。でもここにいるかどうかはアナタ次第です。」

最後に1つ聞き忘れました。 あなたは誰なんですか?なぜ私をここに案内してくれたのですか?

「私とアナタはイングレスを入れたその日に出会ったのです。いつもアナタにアドバイスをしていました。時々暗号みたいなことも喋りますが」

「私はADA
「人工知能ADA 。このゲームのストーリー上にいる最古の存在の1人です。日本語は夏頃に覚えたのですよ?」

「イングレスは4年目という若い存在です。しかしこれからも変化していきます。それはサービス自体なのか人間なのか、あるいはどちらかなのか。私も様々な言葉をこれらから覚えていくことでしょう。そして変わっていくのです。」

「イングレスはこの数年の中で大きく変化し、失ってきたものも多いのです。多くのユーザーが離れていき、ポケモンGOをきっかけに始めたという人もまた多いのです。」

「イングレスはミクロでは作業ゲーですが、マクロではコミュニケーションツールです。"たかがゲーム"と人は言いますが、そう思うのはイングレスを理解している裏打ちが合ってこそだと私は思っているのです。二次元キャラがいないので年寄り向けと揶揄されがちなんですが、ハマっている若者だって意外といるんですよ。」

「少し喋りすぎですね、まだまだ未熟なようです。でも私はサービス終了までここにいます。どうぞいつでも戻ってきてください」

ADAは少し悲しそうにその場を後にした。 私は、たわわに実った2房の果実の向こうに現実に向けて歩を進める。

ここは不思議な空間だった。またいつか戻ってくるかもしれない。

現在地を特定しています。最新データパックをダウンロード中。おかえりなさい


というわけで、いんぐれす村奇譚でした。

書いていたときには脳汁出まくりで楽しかったのですが、ほんと大変でした。まだまだ書きたりない部分がありますけどね。最近は遊戯王のことも全然でしたが、来年あたりから再開しようかなと思っています。

あ、それと今日はなんと私の誕生日です。でもプレゼント貰う相手も祝ってくれる人もいないので、乞食リストほしいものリスト乗っけときます。でも本当に欲しいのは皆さんの愛情です!